《桜を折る心》

題しらす よみ人しらす

ちりぬれはこふれとしるしなきものをけふこそさくらをらはをりてめ (64)

散りぬれば恋ふれど著し無きものを今日こそ桜折らば折りてめ

てめ:「て」は、意志的完了の助動詞「つ」の未然形。「め」は意志の助動詞「む」の已然形。「こそ」の結びになっている。

「散ってしまえば、いくら恋しがっても、何の甲斐も無いのだから、今日こそは桜を折るなら折ってしまおう(と思うのだが・・・)。」

散る桜への思いである。それまで大切にしていたからこそ、散ってしまうのがとても残念に思える。どうせ散ってしまうのなら、いっそ折って手元に置こう、少しの間だけでも自分だけのものにしてしまえる。愛すればこその複雑な思いである。

コメント

  1. すいわ より:

    『伊勢物語』第六段の姫を盗み出した男の心情、こんな感じだったのではないか、と思いました。なんとも刹那的です。一瞬と一生、その人の秤でしか測りきれないものですね。

    • 山川 信一 より:

      なるほど、こんなところでも『古今和歌集』と『伊勢物語』は繋がっているようです。『伊勢物語』を思いながら読むのは、鑑賞に深みが増しますね。

  2. らん より:

    愛するがゆえに桜の枝を折って手元におくこと。うわ、複雑な想いですね。

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