第三十五段  見栄を張ることなかれ

手のわろき人のはばからず文書きちらすはよし。みぐるしとて、人に書かするはうるさし。

わろき(し):相対的によくない。⇔あし。
よし:絶対的によい。⇔よろし。

「字の下手な人が遠慮せず手紙を筆に任せて無造作に書くのはよい。見苦しいと言って、人に書かせるのは煩わしく嫌な感じだ。」

また、話題が変わる。よしなしごとをそこはかとなく書き綴っていることを示すためか。読者を飽きさせないためか。ただし、敢えて前段との関連を指摘すれば、自己の経験、自己ですることを重んじるべしということで繋がる。
人間がいかにに見栄っ張りであるかがわかる。少しでも格好をつけようとする。しかし、下手な字は、むしろ人の優越感に働きかける。嫌がられることは少ないのだ。

コメント

  1. すいわ より:

    手紙を書くのが好きなのですが悪筆。でも伝えたい気持ちが勝ってやはり書いてしまいます。兼好に褒めてもらった気分です。悪筆であっても、読みやすいようにと相手を思って自筆で丁寧に書くのと、悪筆だから代書してもらうのとどちらが良いかと言ったら、文字を見て「あの人からのお便りだ」とわかる方が嬉しいです。

    • 山川 信一 より:

      私も同感です。ただ、私の場合、書いているうちに自分の字が嫌になってきます。それが内容にも反映するのか、思いが上手く書けなくなてきます。その点、メールはありがたいです。兼好の言うことがもっともであることはよくわかります。

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