第三十四段 蘊蓄を傾ける

 甲香は、ほら貝のやうなるが、ちひさくて、口のほどの細長にして出でたる貝のふたなり。武蔵国金沢といふ浦に有りしを、所の者は、「へなたりと申し侍る」とぞ言ひし。

甲香:(かひかう)貝香とも書く。アカニシの蓋。粉末にして練り香の材料に用いる。

「甲香は、ほら貝のような貝が、ほら貝より小さくて、口の辺りが細長く突き出している貝のふたである。武蔵の国の金沢という海岸にあったのを、土地の者は「へなたりと申します。」と言った。

突然、話題が変わった感じがする。しかし、有職(=学識)という点で前段と繋がっている。前段の玄輝門院の有職に対して、ここでは、兼好自身の有職を示している。些細な事柄に対して蘊蓄を傾けている。いわゆるtriviaである。
「有りし」「言ひし」と経験の助動詞「き」を使っている。それにより、兼好が直接経験したことを表し、確かさを強調している。自分がただの衒学的な人間では無いと言いたいのかもしれない。それでも、この話からも、兼好の自己顕示欲が伝わってくる。

コメント

  1. すいわ より:

    思ったこと思ったことを書き連ねているのでしょうけれど、唐突ですね。三十三段に続いて貴族文化の紹介として香合に使われる材料の知識を披露しようとしたのでしょうか?敢えて助動詞の使い分けで自分の経験からの知識だと匂わす?何だか「賢さ」振りが鼻につきます。
    武蔵国金沢、金沢八景辺りでしょうか?本当に行ったのならその辺りの様子とか、書いて欲しいですね。

    • 山川 信一 より:

      兼好は、本当に京都から神奈川の金沢まで来たのでしょうか。ならば、自慢したくもなりますね。
      有職つながりで、上手く自慢の機会を捉えたのでしょう。

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