《雁の気が知れない》

帰雁をよめる  伊勢

はるかすみたつをみすててゆくかりははななきさとにすみやならへる (31)

春霞立つを見捨てて行く雁は花無き里に住みや慣らへる

すみやならへる:「や」は疑問の終助詞。「ならへる」は、慣れている。

「帰雁を詠んだ・・・  伊勢
春霞を見捨ててゆく雁は花が咲かない里に住み慣れているのだろうか。」

春霞が立つ。里は、これから梅、桜と次々に開花する。それなのに雁は、こんな素晴らしい春を見捨てて北国に帰っていく。その気が知れない。そこで、考える。もしかしたら、雁は、花が咲かない里に住み慣れているのだろうかと。
雁との別れを惜しみつつ、一方で、春の素晴らしさを訴えている。

コメント

  1. すいわ より:

    雁の向かう先が「花無き里」と示された事で、まだこれから花咲き始めるはずの「ここ」が春爛漫となる様子を想像させます。
    「貴方との仲はこれからだというのに、華やかなここの暮らしや私を見捨てて貴方は国へ帰るの?」と言っているようにも。「花無き里」、私以外の花がそこにはいない、と思いたい、でしょうね。

    • 山川 信一 より:

      なるほど、これは女がつれない男に贈る歌としても読めますね。「あなたは、ここにこんなにいい女がいるのに帰ってしまうのね。あなたは、女が要らない生活に慣れていらっしゃるのかしら。」とでも言いたいようです。

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