入京

十六日、けふのようさりつかた京へのぼるついでにみれば、やまさきのこひつのゑもまがりのおほぢのかたもかはらざりけり。「うりひとのこころをぞしらぬ」とぞいふなる。かくて京へいくにしまさかにてひとあるじしたり。かならずしもあるまじきわざなりたちてゆきしときよりはくるときぞひとはとかくありける。これにもかへりごとす。

十六日、今日の夜去つ方京へ上るついでに見れば、山崎の小櫃の繪看板も曲りの大釣針の形の看板も変はらざりけり。「売り人の心をぞ知らぬ」とぞ言ふなる。かくて京へ行くに島坂にて人饗したり。必ずしもあるまじき業なり。立ちて行きし時よりは来る時ぞ人はとかくありける。これにも返り事す。

ようさつかた:夜になった頃。「ようさっつかた」と発音。「つ」は「の」の意。(夜去方)
やまさきのこひつのゑもまがりのおほちのかたも:山崎の店の小櫃の絵看板も曲りにある店の大きな釣り針型の看板も。
うりひとのこころをぞしらぬ:商人の心は計りかねる。

問1「けふのようさりつかた京へのぼる」とあるが、なぜこの時刻を選んだのか、答えなさい。
問2「かならずしもあるまじきわざなり」とは、どういうことを言っているのか、答えなさい。
問3「たちてゆきしときよりはくるときぞひとはとかくありける」とあるが、なぜこう言うのか、説明しなさい。

コメント

  1. すいわ より:

    問一 何もできない夜に移動する事で無駄な時間を使わないようにした。
    と単純に思ったのですが、後の文を見ると、帰って来たことを気取られて、無闇に声掛けられることを避ける為に陽の無いうちに入京したかった
    問ニ 旅立つ時は別れ行くのだから、はなむけにと宴を開くことはあるが、帰京は再会出来たのだから宴は必ずしも開く必要はない

    問三 入京する前の島坂で宴を開いてくれる人があったが、結局それに対する返礼をする羽目になった。地方へ赴く時はこの先どうなるかわからない付き合いに手間暇かけようとはせず、地方の任務を終え蓄財したと見るや、見返りを目論んで寄り付いてくる人は兎角いるもの。なんとも現金なものだ、と言いたい。

    • 山川 信一 より:

      問1 正解です。傍目をかなり気にしていますね。問2 格別、その家の人がもてなしてくれる理由など無かったのです。 問3 見返りを求める浅ましさを批判しているのですね。

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