第百十三段 ~恨み言~

 昔、男、やもめにてゐて、
 長からぬいのちのほどに忘るるはいかに短き心なるらむ


 昔、男が女と別れて、一人暮らしをしていて、
〈長くもない命であるのに、愛した人を忘れるのは、あなたは何とも浅はかな(「短き」)心でいるのでしょうね。〉
 この男が現在独身なのは、前段に続いて読めば、女に去られたからであろう。この歌も、去った女を非難している。命を長くないと言い、相手の女の心をさらに短いと言う。ここでは短いは、浅はかと言う意味であるけれど、敢えて短いと言う言葉を使っているところに工夫がある。
 女に去られた男は惨めである。こうして嘆くしかないのだから。第百八段のような女でもいた方がましと言うことか。

コメント

  1. すいわ より:

    「男やもめに蛆が湧き女やもめに花が咲く」なんて言いますね。今や家事に男性も積極的に関わる事思うと、遠からず意味を失って行く言葉なのでしょう。
    長からぬ、と言うあたり、長く連れ添ってきて、この期に及んで妻が立ち去った?とも取れて、十六段の有常を思い出しました。でも、この段の女は一時の感情で、それこそ短気を起こして飛び出したような。そんな女に執着する事無いのに、と思いつつ、相手を非難する言葉しか出ていない所を見るとどっちもどっち、なのでしょうか。

    • 山川 信一 より:

      これは今言うところの「熟年離婚」でしょう。
      女が出て行くのはよほどのことです。男ほど簡単に出て行くことはしないはず。女の方が保守的ですから。
      やはり、男に問題があったのでしょう。長くも無い命であり、更に短い結婚生活であるからこそ、一緒にいたくないのでしょう。
      男とは正反対の理屈も成り立ちます。この時代の女性の方が自分の思いに正直で行動的なのかもしれません。

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