古典

第百八十五段  馬乗り名人の正体

城の陸奥の守泰盛は、さうなき馬乗りなりけり。馬を引き出させけるに、足をそろへて閾(しきみ)をゆらりと越ゆるを見ては、「是は勇める馬なり」とて、鞍を置きかへさせけり。又、足を伸べて閾に蹴あてぬれば、「是は鈍くして、あやまちあるべし」とて、乗ら...
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《寂しさはかなしみに》

題しらす よみ人しらす きみしのふくさにやつるるふるさとはまつむしのねそかなしかりける (200) 君しのぶ草に窶るる古里は松虫の音ぞかなしかりける 「私は君を偲んで衰え、家は忍ぶ草に荒れる古里は、松虫の音こそがかなしいことだなあ。」 「君...
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第百八十四段  この母にしてこの子あり

相模守時頼の母は、松下の禅尼とぞ申しける。守を入れ申さるる事ありけるに、すすけたる明り障子のやぶればかりを、禅尼手づから、小刀して切りまはしつつ張られければ、兄の城の介義景、その日のけいめいして候ひけるが、「給はりて、なにがし男に張らせ候は...