第六十四段     有職故実の正しい解釈

「車の五緒は、必ず人によらず、ほどにつけてきはむる官(つかさ)・位に至りぬれば、乗るものなり」とぞ、ある人仰せられし。

五緒:(いつつを)牛車の簾の一種。上部に五筋の皮緒を垂らしたもの。また、その牛車。

「『車の五緒は、必ずしも人の身分によらない。それぞれの家柄の最高の官・位に至ってしまえば乗るものである。』と、ある尊い方が人がおっしゃった。」

これも有職故実の話である。車の五緒の正しき由来を説く。五緒をつけた車に乗るかどうかは、身分によるものではない。それぞれの家柄で最高位に達した場合に乗るものなのだ。(当時は、家柄ごとに最高位が決まっていた。)身分が低くてもその最高位に達するならば、乗ることができた。五緒に乗る乗らないを身分の上下によると考えるのは誤りであると言う。
兼好らしいこだわりである。いい加減な前例主義が許せなかったのだろう。しかし、そもそもの起源は何だったのか。そこまでの考察は無い。「ある人」と権威を根拠にするところも権威主義者の兼好らしい。

コメント

  1. すいわ より:

    そのこだわりはそんなに大事なものなのでしょうか。「ある人仰せられし」と自分が言っている体にしないのが毎度の事ですが煮え切らない。兼好が五緒に乗って非難されたのか、とも思いました。

    • 山川 信一 より:

      なるほど、自己防衛ですね。それなら、わかります。筋を通さねばなりませんね。
      ただ兼好は自分の利害に関係なく、有職故実に蘊蓄を傾けるのがお好きなようです。

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