《梅の区切りの歌》

題しらす よみ人しらす

ちりぬともかをたにのこせうめのはなこひしきときのおもひいてにせむ  (48)

散りぬとも香だにを残せ梅花恋しき時の思い出にせむ

だに:せめて・・・だけでも。

「散らずにいれば申し分ないが、散ってしまうとしても、せめて香りだけでも残せ、梅の花よ。恋しい時の思い出にしようと思う。」

香りは、思い出に繋がる。記憶を呼び戻す力があるからだ。作者は、そのことを経験的に知っていたのだろう。
これで梅の花の歌が終わる。それで、梅の花を名残惜しく詠む歌をここに置いているのだろう。
この歌も恋の歌として詠める。「恋が終わっても、せめてあなたの香りを残してください。あなたの思い出としましょう。」歌物語が書けそうだ。

コメント

  1. すいわ より:

    プルースト効果なんて言いますね。それにしても梅の花だけでもこれだけ沢山の思いが歌われるとは。特別な事だけでなく、日々のちょっとした心の動きも、歌という洗練され凝集した形に嵌め込む事で、その時の気持ちを瞬時に保存出来るのですね。
    うぐいすの愛でる香りの野に満ちて
    春の日なかに鳴きて誰を呼ぶ
    お粗末様です、、

    • 山川 信一 より:

      その通りですね。逆に言えば、和歌(短歌)は「日々のちょっとした心の動き」を「瞬時に保存」するのに向いている文芸です。
      早速実践されるところが素晴らしい。作られた短歌に物語が感じられます。「私を呼んでください。」と言いたくなりました。
      《うぐひすの見せぬ姿にいざなはれめじろに心奪われぬやう》

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