《匂いは未練のもと》

寛平御時きさいの宮の歌合のうた  素性法師

ちるとみてあるへきものをうめのはなうたてにほひのそてにとまれる (47)

散ると見てあるべきものを梅花うたて匂ひの袖に留まれる

うたて:いやらしく。嘆かわしく。情けなく。
とまれる:「とまれり」の連体形で、詠嘆を表す。

「散るものと見ていればよいのに、なまじ折り取るから、梅の花はいやらしく匂いが既に留まっているのだ。」

この歌は、前の歌に対する反論である。前の歌では、梅の香は春を留めてくれるとプラスに評価していた。しかし、この歌では、なまじ匂いが残るから、かえって春への未練が断ち切れないのだ。匂いは罪なヤツであると言う。
こんな「論争」を引き起こすのも、梅に魅力があるからだ。さて、軍配はどちらに上がったのだろう。前の歌は「詠み人知らず」であるから、勝ったのは素性法師だろう。前の歌は、やや常識的だ。

コメント

  1. すいわ より:

    季節の移ろいと共に散り去りゆくという自然の流れに反してまでも、その香気で存在を示す梅の花。前の歌同様、実際に袖に香りが残るわけでは無いけれど、その魅力ゆえに後ろ髪引かれてしまう。抗えなさが口惜しくて自分が情けないのか、いつまでも香りを残す梅の花がいやらしいのか。

    • 山川 信一 より:

      梅一つを題材にしても、これだけ様々な歌が詠めるのですね。万物との関わりの中で歌がいくらでも生まれることを証明しています。

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