《名残の雪の若菜摘み》

仁和のみかとみこにおましましける時に、人にわかなたまひける御うた 仁和のみかと

きみかためはるののにいててわかなつむわかころもてにゆきはふりつつ (21)

君がため春の野に出でて若菜摘む我が衣手に雪は降りつつ

仁和のみかど:第58代光孝天皇(830年~887年)。仁和は年号。
おましましける:いらっしゃった。
たまひける:くださった。
衣手:歌語で「袖」のこと。
つつ:しきりに・・・している。動作の反復・継続。

「光孝天皇がまだ親王でいらっしゃった時に、人に若菜をくださった時に若菜に添えられた御歌。 仁和の天皇
大事なあなたにさしあげようと、春の野に出て若菜を摘む。その私の袖に名残りの雪がしきりに降り掛かって・・・。」

光孝天皇の親王時代の風雅な生活ぶりと、穏やかな人柄とがうかがえる。自ら「君」(親しい女性)のために若菜を摘みに春の野に出た。ところが、冬の名残の雪が降ってきた。それは思いのほか大雪だった。なかなか止みそうにない。親王は摘み終わって帰って来ると、「春の雪も風流でいいものですが、これほど降るとはね。いやあ、摘むのに難儀しましたよ。でも、他ならぬあなたのためですから、これくらいなんてことありません。」という思いを込めて、この歌を詠んだのだろう。袖に焦点を当て男女の親愛関係を暗示している。「あなたにお貸しする袖が濡れてしまいました。」とでも言いたいのだろう。『百人一首』にある。

コメント

  1. すいわ より:

    雪が降って来たのですね、降っていたのではなく。淡い緑に萌える野に白い花びらのような雪がふわりと舞う様はなんとも美しいです。
    雪が降るくらいだから屋敷の中もきっと寒い。そんな時に送り主の温かな心と共に届けられた“春”、「あなたの為なら雪に降られても、、」と手ずから若菜を摘む、これは嬉しいですね。贈られた人はきっと喜ばれた事でしょう。
    七草の若菜摘みは女の人の仕事と前々回の歌の解説にありましたが、親王はそんなことには拘らない、ただただ思い人の健康を願い春を届けたい、と思うような方だったのでしょうね。

    • 山川 信一 より:

      春だと思っていたのに、また雪が降ることがあります。名残の雪、牡丹雪でしょう。若菜を摘んでいる袖に積もります。そんな様子が目に浮かびますね。
      親王は気さくな方ですね。歌はああは言っても、決して恩着せがましくありません。人柄がよく出ています。

  2. らん より:

    春雪は湿った大きな牡丹雪ですよね。
    春とは名のみで降ってきたのでしょうね。そんな中で若菜摘みしてる様子が目に浮かびます。
    親王は気さくな良い方ですね。

    • 山川 信一 より:

      季節は行きつ戻りつして進んでいきます。若菜が摘めると思えば、また雪が降ってくることもあります。
      この歌は、そんな季節感を捉えています。詠み手の人柄もわかるいい歌ですね。

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