《万物に力が漲る春》

題しらす  よみ人しらす

あつさゆみおしてはるさめけふふりぬあすさへふらはわかなつみてむ (20)

梓弓おしてはる雨今日降りぬ明日さへ降らば若菜摘みてむ

あつさゆみおして:「張る」を導く序詞。「おし(す)」は、押して曲げる。
はる:「張る」と「春」の掛詞。
さへ:までも。
つみてむ:摘んでしまおう。「て」は完了・強意の助動詞「つ」の未然形。

「梓弓を押して曲げて弦を張るように、万物に力の漲る春がやって来た。今日は暖かな春雨が降ってきた。この雨が明日まで降るなら、若菜を摘んでしまおう。」

序詞を効果的に用いている。梓弓にピンと張った弦のイメージを万物に力の漲る春に重ねている。
今日は暖かな春雨が降っている。この雨で若菜もすくすく成長していることだろう。明日まで降ったなら、摘むのに十分な大きさになるに違いない。雨に濡れても摘んでしまおう。
若菜摘みへの期待と喜びを詠んでいる。

コメント

  1. すいわ より:

    梓弓を押す?引くのではなく?と思ったのですが、弦を「張る」ために押し曲げるのですね。弦を張るのも若菜を摘むのも「ハル」準備ですね。

    • 山川 信一 より:

      弓は引く前に、弦を張ります。張るためには、弓をたわめる必要があります。それを「おす」と言います。
      「弓」「張る」「雨」「若菜」が春をイメージします。

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