梅の枝と白雪と鶯

雪の木にふりかかれるをよめる    素性法師

はるたてははなとやみらむしらゆきのかかれるえたにうくひすのなく (6)

春立てば花とや見らむ白雪の掛かれる枝に鶯の鳴く

「雪が木に降りかかっているのを詠んだ
 立春になったので、花と見ているのだろうか。白雪の掛かっている枝に鶯が鳴いていることよ。」

「雪の」は「ふりかかれる」に掛かる。「春立てば」の「ば」は、原因理由を表している。「花とや見らむ」の「や」は係助詞で係り結びを示している。この文を疑問文にしている。「らむ」は現在推量の助動詞で連体形。「掛かれる」は「かかり+ある」が一語化した形で、「掛かっている」の意。「鶯の鳴く」の「の」は主語を表す。「鳴く」は連体形で詠嘆を表す。
雪の降りかかる梅の木に鶯が来て鳴いている。それを見て、作者は、鶯の気持を次のように想像している。
立春になったので、雪を梅の花だと思い込んでいるのだろうか、それとも、梅の花だと思って来てみたが、雪だったのにがっかりして、「嫌だ、乾かない。」と鳴いているのだろうかと。
作者は、この歌によって、なかなか来てくれない春へのもどかしい思いを歌っているのである。この鶯の思いこそ我が思いであると。

コメント

  1. すいわ より:

    せっかく梅の花が咲いたと思ってやって来た鶯、花と見たのは枝に置く白雪。「よみ人しらす」の歌より一歩、それでも春は近付いているのでしょうか。降り続ける雪でなく、そこにある雪。白雪、とあるせいか光輝くような明るさを感じて、だからこそ春待ちの気持ちが高まります。

    • 山川 信一 より:

      季節は行きつ戻りつ進んでいきます。春も様々な顔を見せます。歌の配列はそれを丁寧に辿っています。

  2. らん より:

    この時の立春とは何月何日頃なのでしょうか?
    鶯も自分も、早く春が来て梅の花が見たいよ、という気持ちが伝わってきます。

    • 山川 信一 より:

      当時は旧暦ですから、1月1日が立春です。『古今和歌集』の最初の歌は、それがズレたことを歌っていましたね。

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