かひなきもの

二日、あめかぜやまず。ひひとひよもすがらかみほとけをいのる。
三日、うみのうへきのうのやうなればふねいださず。かぜふくことやまねばきしのなみたちかへる。これにつけてよめるうた、
「ををよりてかひなきものはおちつもるなみだのたまをぬかぬなりけり」
かくて、けふくれぬ。

二日、雨風止まず。日一日終夜神仏を祈る。
三日、海の上昨日のやうなれば船出さず。風の吹くこと止まねば岸の浪立ち返る。これにつけて詠める歌、
「緒を縒りて甲斐無きものは落ち積もる涙の玉を抜かぬなりけり」
かくて、今日暮れぬ。

問「ををよりてかひなきものはおちつもるなみだのたまをぬかぬなりけり」を鑑賞しなさい。

コメント

  1. すいわ より:

    一日の長閑な天気から一転、二日続きの悪天候、「浪立ち返る」というのだから、海の浪も高く荒れているのでしょう。一心に天に祈る乗船客たち。

    (天から降り注ぐ雨は御仏の涙だろうか。)長い長い糸が縒れるほど手を擦り合わせて天に祈っても、その糸で全ての落ちる涙(雨)を貫き留めることは出来ない。ああ、天気ばかりはどうにもならないことであるなぁ。

    • 山川 信一 より:

      素晴らしい鑑賞です。祈る姿勢と糸を縒る姿勢を重ねたところがいいですね。そうじゃなくては、なぜここで糸を縒るが出てくるのか説明がつきません。

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