内容の暗示

そのよしいさゝかものにかきつく。

この文脈からすれば、「そのよし」とは、門出のいきさつを言うのだろう。「いささか」は少し。「ものにかきつく」の「かき」は〈書き〉で間違いない。
ただ「ものに」が気になる。書くのは、紙に決まっている。ならば、「ものに」は要らない。なぜわざわざ「ものに」と断るのか?これは、たまたまその辺にあったあり合わせの物にという意味だ。つまり予め用意して置いた紙ではないと言うのだ。
では、なぜそう言うのか?それは、慌ただしい中で書くからだ。日記を落ち着いて書いている余裕などない。ちょっとした時間を見つけ書きつけると言いたいのだ。
では、なぜそう言いたいのか。それは、この日記にはまともな内容がかかれていない、ほんの気まぐれに書いたのだと言いたいからだ。なぜか?日本人特有の謙遜か?
それもあるだろう。しかし、作者をぼかし、年月をぼかしていることと考え合わせると、責任逃れとも考えられる。内容についての責任を問わないでほしいと言いたいのだろう。これは、謙遜と言うよりむしろ本音であろう。この日記には、作者がわかると困るような内容が書かれている可能性がある。内容を暗示している。
「もの」があり合わせの物であるなら、「かきつく」は〈書き付く〉の他に〈書き継ぐ〉が見えてくる。仮名文なので、「つく」は清濁を書き分けていないので、二つの意味が掛けられる。その時その時で、手近にあるあり合わせの紙に、この旅のなりゆきをこれからも書き継いでいくと言うのだ。

コメント

  1. すいわ より:

    そうなのです、「もの」ってあやふやで、どう捉えればいいか悩みました。きっちり用意したものにしっかり書くのでなく、目に付いたその辺のモノに折に触れ思い付くがままに書く、本人が特定されないからこそ自由に、かつ簡潔にモノ言えて、さながらTwitterに呟くが如く、ですね。
    感覚的に継続して「書き綴っていく」と書いたのですが、かきつく→かきつぐ→書き継ぐは気付きませんでした。

    • 山川 信一 より:

      今ならTwitterというところですね。実際は、それを装って周到に表現を練って書いているのですが・・・。
      「書き綴っていく」には、その二つの意味が込められていましたね。すいわさんの感性は正しいです。

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