2020-05

古典

「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」

何故《なぜ》こんな運命になったか判らぬと、先刻は言ったが、しかし、考えように依《よ》れば、思い当ることが全然ないでもない。人間であった時、己《おれ》は努めて人との交《まじわり》を避けた。人々は己を倨傲《きょごう》だ、尊大だといった。実は、そ...
古典

残月光冷ややかに

時に、残月、光冷《ひや》やかに、白露は地に滋《しげ》く、樹間を渡る冷風は既に暁の近きを告げていた。人々は最早、事の奇異を忘れ、粛然として、この詩人の薄倖《はっこう》を嘆じた。李徴の声は再び続ける。  春菜先輩に戻った。今日の割り当て箇所は短...
古典

自嘲癖

旧詩を吐き終った李徴の声は、突然調子を変え、自らを嘲《あざけ》るか如《ごと》くに言った。 羞《はずか》しいことだが、今でも、こんなあさましいに身と成り果てた今でも、己《おれ》は、己の詩集が長安《ちょうあん》風流人士の机の上に置かれている様を...