第五十五段 ~復縁を賭ける~ 

 昔、男、思ひかけたる女の、え得まじうなりての世に、
 思はずはありもすらめど言の葉のをりふしごとに頼まるるかな

 昔、男が思いを掛けた女が、今では、手に入れることができそうにもなくなって(「え得まじうなりて」「まじ」は打消推量の助動詞。)、しばらく経った時(「」)に、
〈今となっては私のことなど思わなくなっているでしょうが、あなたからいただいた言葉を折節ごとに読み返しては、また思ってもらえるのではないかと頼みにされることです。〉
「私はあなたの言葉を今でも読み返しています。あなたも私が贈った言葉を読み返して、私への思いを思い出してください。」と言うのである。
 第五十三段からの繋がりで読むと、結局男はフラれたらしい。恋はいつも上手くいくとは限らない。しかし、関係は終わっても言葉は残る。だから、男は、歌に復縁を賭けるのである。

コメント

  1. すいわ より:

    文?歌?は返してもらってはいたのですね。でも、前段、前前段と女の姿がまるで見えてこない。フスマートのモナリザと前回コメントに書きましたが、「幻の女の」になってしまいましたね、体良くあしらわれた感があります。残念。それでもまだ未練の残る様子。自分の友人だったら、やめておけばいいのに、他の人にしたら?と思いつつ、、言えませんね。まぁ、順風満帆、成功続きのしたり顔より、傷心の苦さを知った憂い顔の方が魅力的かも、しれませんよね。

  2. 山川 信一 より:

    可能性がある限りどこまでも手を尽くすというのが男の流儀なのでしょう。失恋も恋のうちなのですね。失恋しなければ、至れない境地もあります。その結果、すいわさんがおっしゃるように、魅力的ないい顔になれるのでしょう。

  3. みのり より:

    諦めきれない男の想いが伝わってくる歌ですね。
    女の心に響くといいのですが。
    しつこいなあと思われたらかわいそう。
    その時は、失恋して成長してもらいましょう。

    • 山川 信一 より:

      『伊勢物語』は恋のバリエーションを描いています。この段は、失恋です。
      失恋をどこまでも味わい尽くすのも、恋だと言うのでしょう。
      人は失恋することで成長しますね。

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