第四十八段 ~待たされる~

 昔、男ありけり。馬のはなむけせむとて、人を待ちけるに、来ざりければ、
 いまぞしるくるしきものと人待たむ里をば離れずとふべかりけり

 友人が国司になった。送別の宴を設けようと人を待っていたが、来なかったので、
〈今こそ知りました、待つのが苦しいものと。女が待っているだろう里を間遠にならず訪ねるべきであったなあ。〉
 女は男を待つしかない世であった。有利な立場にいるとそれが当たり前だと思ってしまう。男は、主導権を握るからこそ、女の気持ちを思いやらねばならない、そう反省している。
 ただし、ここでは、友人への皮肉になっている。やむを得ぬ事情があったのだろうが、すっぽかされるのは、面白くない。一言言ってやりたい。恋に置き換えることで、角の立たない歌になっている。

コメント

  1. すいわ より:

    この男の「待つ」は宴の催される、この日と限定されて、その日をやきもきしながら過ごした。それを思うといつ来るとも知れない相手をひたすらに待つ女の気持ちはいかばかりか。あぁ、つとめて訪れてやるべきであったなぁ(そう、友人との約束をすっぽかして、女の所へ行っているであろう君を見習って、君なんか待たずにあの女の所へ私も行ってやれば良かった)
    心待ちの楽しみ、というのもありますけれど。それはどんなに時と場所が離れていても確実に来る、という前提での話、なのでしょうか。
    今は簡単に連絡も付いて、すれ違いなんてしようもないように思うのですが、どうにでもなる前提で動くので、むしろ昔より待ちぼうけ率が高いです。

    • 山川 信一 より:

      すいわさんのおっしゃるとおりです。この男の言うのは、言葉だけのこと。女が待つのつらさなんてわかっていません。
      本音は、こんなことなら女のところに行けばよかったよと言うところでしょう。
      現代の方が待ちぼうけ率が高いとは!皮肉な事実ですね。たとえば、既読が付かないことでイライラするようですね。

    • らん より:

      先生、こんばんは。
      2人は仲良しの友人同士なのですね。
      こんな恨みごとを男に言う友人のことを想像し、
      プンプン怒ってるけど、「もうまったく、仕方ないやつだなあ」と思っている
      信頼関係が見えた気がしました。

      • 山川 信一 より:

        そうですね。男同士の友情は別物って感じですね。
        男はそれも大事にしていますね。

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